反対クリミナル

ゆっくり小説書いていきたいなと思います~

反対クリミナル 6

学校にて、昼休み。

給食制なので隣同士疾風と或斗は落ち着かない顔をしていた。

「まさかあの馬鹿がな…意外。」

「僕だって信じられない…それを言えば星那だって一瞬で認めるのに…。」

前の席の女子は当然人間な訳なのでばれるわけにはいかずコソコソと顔を寄せて会話する肩身の狭い毎日だ。

そのくせ或斗はモテるため完全無視もできないわけだが。

「けどそれじゃあいつも納得いかないんだろ。珍しくあの馬鹿がよく悩んでたじゃん。」

 馬鹿だ馬鹿だと連呼する疾風に前の女子は「控えたら?」と口を挟んでくるので「別にいいじゃん、お前のことじゃないし。」と相変わらずぶっきらぼうにそう言った。

 苦笑いすると或斗は会話を続ける。

「でもどう思う?これで星那がピンチになったら、真紘は。」

面白そうに或斗が笑うと疾風も釣られて笑う。

「さあな、あいつはとりあえず体張るんじゃないか?問題はそのあとだろ。突っ込んでくような…馬鹿、だからな。」

馬鹿、という単語を強調するように言ってから疾風は食器を持って立ち上がった。

「その前にあの女の正体確かめに行かないと、だろ。片付けていくぞ。」

うん、と或斗が笑うと最後の一口と共に手を合わせて疾風を追いかけるように立ち上がった。

 

「あの子って何年なの?」

或斗が廊下を出てすぐそう言った。それに疾風はすぐ答える。

「学年色は赤だったな。1年だろ。兄弟はいないだろうしお下がりとかじゃないしな。」

観察の能力はやはりスゴイ。或斗はその言葉に納得しながら1年の棟へと歩いていく。

「目立つしすぐに見つかるよね。」

あまり問題視せずに、或斗はそう言う。疾風もそれには頷いた。

「あっちの方から見つけて欲しいように走ってきたんだからそうだろうな。」

頭の後ろで手を組みながら階段を下りる。こそこそと壁から覗く或斗の指差す方向にはあっさり、その桃色の髪を持つ少女がいた。

「すっごい普通だったな。」

疾風も驚いたようにそう言った。或斗も頷いて、

「昼休みの過ごし方も普通の女の子と変わんないねー。」

そう言う。楽しそうに友達と笑いながら話すその様子を見て。

二人で観察していると、その少女はこちらを見る。

或斗は驚いて少しだけ身構える。が、疾風は何も変わらずその目で見ていた。

友達との楽しそうな会話を終わらせてまでこちらに来る。と、その顔は厳しく固いものへと変わった。疾風は眉を寄せて不快そうな顔をする。そしてこちらからも彼女に寄った。

「なんだ?その顔は。見つけてほしかったんだろ。ピンク女。」

 或斗も仕方なく出て行く。周りの女子からの少しの黄色い声。

疾風はそれも気にせず、笑って彼女に話しかける。だが彼女のその顔は厳しく固いままだった。

「私は春風結奈華-ハルカゼユナカ-よ。《魅惑のユナカ》とも言うわ。」

突然名乗るので或斗は驚いても、疾風はそのまま笑う。

「ほう、なんでそんな軽々言うんだ?」

その言葉を聞いても、何を聞いても、彼女はさっきの笑顔を取り戻さない。

ただただむすっとした可愛げのない顔で淡々と話すだけだった。

「そんなの決まってるわ、あなた達と考えてることが同じだからよ。」

 緑の瞳で見つめられれば誰もが彼女、結奈華を美しいと言うだろう。

《魅惑》の名を持つほどはある。或斗に向けられる女子の視線だけじゃなく、男子の視線があるのも疾風は感じていた。

結奈華はそれも気にせずただ言葉を続ける。

「私も、人間世界を防衛したいの。《ハンタイ世界》は腐っている。」

周りの人間の目も気にせず、喋り続ける結奈華。疾風は少しだけ面倒なことになる予測はしながら話を続けた。

「成る程な。お前、種族はなんだ。」

 彼女を試すように、ゆっくりと、観察しながら質問を繰り返す。

それに結奈華は戸惑いも無く答える。

「妖精。差別されていたけれどね。」

差別、その言葉には或斗さえ引っかかった。なんとなく、それが原因だろうな、と。

「二つ名は持ってんの?」

疾風が次へ、次へ、質問を繰り出す。狭い廊下に学年も性別も違う生徒が3人。聞き耳を立てるものも少なくなかった。

「【強固で小さな巨人】ってよく呼ばれる。大して有名なことはしていないけれど。」

強気そうな仁王立ち、緑の瞳…見ればなんとなくそう呼べるか。納得はいく。二つ名がある時点で真紘より有名ということになる。

「仲間に入れてほしいのか。」

小さな身長で腕組をして壁に寄りかかる体勢の疾風も負けていないくらい威圧感がある。周りの生徒はその雰囲気に負けてはけていく者も少なくない。

「それはあなた達のことをもっと見てから決めたいの。だから少し待って。」

疾風は思っていた。なんとなく、笑わなくて観察したがるところは星那に似ている、と。

相手をよく見ないと不安で、笑顔さえ見せる余裕が無い。

…疾風はそれが嫌いじゃなかった。

「分かったよ、今日の放課後だ。星那のウチに来い。場所は知ってるんだろ?俺達もお前のことが見たいんだ。」

いくぞ、或斗。そう言ってまた階段を登った。或斗はそれに走ってついていく。

 

「ホントは彼女の考えなんて見えてたんでしょう?」

 或斗は納得いかないという顔で疾風にそう問う。だが彼は別に、とでも言いそうな顔で淡々と喋る。

「分かりきったことを質問した方が気持ちが顔に出る。でも…あいつなかなか分かりにくかったぞ。仲間になれば相当いい戦力だ。」

心底楽しそうに頭の後ろで手を組みながら階段を登っていく疾風を後ろから見ている或斗は、

「性格悪ーい。」

と、舌を出して彼を貶した。

 

結奈華は話を終えるとクラスメート達の元へと戻る。

「なに?結奈華…あれ、怖い先輩?」

それに結奈華は笑って首を振る。と、別の少女がそうだよ、と続ける。

「違うよ!或斗先輩は優しくてカッコいい先輩なんだよ!」

或斗のファンなようで、結奈華はよく分からない、と内心思いながら笑う。

「でも、茶髪の先輩ちょっと怖そうだったね。大丈夫だったの?」

結奈華はその問いに、ふんわりと、少しだけ困った笑みを見せて、

「ああ、疾風先輩はね?ちょっとだけ性格悪いよ。」

これから仲間になることを否定するように、にっこりと、魅惑の笑みを見せた。

反対クリミナル 5

「よっしゃー!今日も行きますかー学校。」

疾風が背伸びをしていつも通りの道を歩く。

中学までの道のりに小学校があるため、そこで小学4年生の星那を置いていき、中2の疾風と或斗、中3の真紘が中学まで行く。高校は緊急時に仮病して駆けつける程度。中高生は悩み事が多かったりで結構漬け込まれる場合が多いので大人数で潜入する。

「あーあ、もうちょっと人数欲しいですよね。高校とかにも要りそうですし、学校以外の場所にも…。」

真紘がそうこぼした。確かにそうなのだ。仲間が少ない。この四人でこれから過激になっていくであろう襲撃を止めるのは難しいことである。

「まあね。でも今はこれで我慢だよね。僕たちで頑張るしかないよ。」

或斗が困ったように笑う。星那はそれに単純に付け加える。

「その内放っといても増えると思うけどね。なんとなく、あっちの世界も複雑で面倒なことになってるみたいだから。」

 世界と敵対するということに恐れるものも少なくないようで。根性なしは逃げるか怯えて震えるかしているらしくどうとでもなりそうな雰囲気にはなっているらしい。

「大変だな、あっちもこっちも。」

疾風がまるで人事かのように呟いたとき、やっと小学校の前まで歩いてきた。

 

「じゃ、また帰り。」

全員で手を振ってまた歩き出そうとしたとき、風が吹く。すこしだけ違和感のある。

全員が道路の方向を見ると声を揃えて「あ…」とそう言った。

 

桃色の髪を二つに結って緑の瞳を持つ少女が走り去る。

「…《ハンタイ世界》の、住民ですよね。あの色といい…雰囲気といい…。」

真紘が控え目に切り出すと3人は揃って頷く。星那は、

「どうせあの制服なら、君達と中学は同じでしょう?ちょっと見てきなよ。」

そうするつもりだ、と疾風が面白そうに笑う。

「女の子か、珍しいね。」

或斗が少しだけ少年に見える人間の姿をしてそう言った。

「うう、また俺より強いんですかね…」

青色の髪を揺らして真紘は心配そうにする。

少しだけ目標ができたという風に、四人は別方向に歩き出す。

 

 「まあまあ真紘、そんなヒヤヒヤしなくても星那は君のこと案外大切に思ってるんじゃないの?」

或斗は真紘にそういって肩を叩く。ううう、と弱弱しく声を漏らす真紘。それを疾風は観察すると真紘は泣きそうになりながら言葉を続けた。

「俺、今日の朝馬鹿なこと言ったんですよ。星那様のことは命に代えても守るって…。ですけど俺星那様より強い相手に割って入っていけるんですかね?俺なんかが守ったところで星那様は…。」

助からない、真紘はその言葉を飲み込んだ。ただ疾風はやはり、分かったような顔をする。

少しだけ、面白そうな顔をしながら。

「へえ、お前なんか隠してるだろ。」

疾風は笑って、真紘にそう言う。げっ、と真紘が少しだけ声を漏らす。

或斗はよく分からないといった顔で二人の会話を聞く。

「結構、守れる自信ありますって顔してるぞ、お前。」

その疾風の言葉を聞いて或斗はホントに?と期待するように顔を寄せる。

真紘は逃げられないと悟って素直に言葉を紡いだ。

 

「ええ、守れるんです。ただそれは…」

 

その言葉には或斗も疾風も、立ち止まって言葉を失った。

反対クリミナル 4

「お邪魔しまーす」

現在7:20。この時期だとやっと日が出てきて明るくなった頃だ。

見るからに豪華な家に住む星那と真紘はこの時刻ならとっくに起きて学校に行っているかも分からない時間だ。

「どちら様です…って疾風様に或斗様!昨晩はお疲れ様でした。お揃いで、何用ですか?」

真紘の丁寧なのかなんなのかよく分からない出迎えに遭い、疾風は許可もなくその家の中に入っていった。

「朝飯をご馳走になろうかと思ってなー。」

躊躇なく星那の部屋へ進む疾風。戸惑う真紘に或斗は靴を脱ぎながら付け加えて話す。

「疾風が朝ごはんの当番をサボったんだよ、僕そのせいで朝ごはん抜きさ。ねえ酷くない?星那~」

へえ、と納得している真紘の横を或斗が歩いていく。奥の方から星那の声が聞こえる。

「なんでもいいけど朝から騒がしくしないで。真紘、うるさい奴らは家に入れなくていいよ。」

と、あまり抑揚をつけずにそう言った。それを真紘は本気にして言い返す。

「ええー、でも疾風様に或斗様だったから…。あ、お茶淹れますか?」

忙しそうに廊下を歩き回る真紘と、星那の部屋の前でギャーギャーと喧嘩をする疾風と或斗。星那の大きな声さえ聞こえる。

「まあ或斗は可哀想だからあげてもいいよ。けど疾風はダメだね。」

やったー、という或斗の声。差別じゃん、とふてくされる疾風の声もする。

「まあいいけどな、俺は。1日くらい食わなくたって飢えないし。或斗はお腹いっぱい食ってけよ、また太ってもいいならな。」

嫌味全開で疾風が或斗にそう言った。だが或斗も怒ったりはしない。

「女子じゃないんだしそんなこと気にしないよ。そもそも太ってないから。」

笑ってそう言うと、或斗が真紘の方へ走っていく。朝食を貰いに行ったようだ。

残された疾風と星那は少しだけ静かになる。

 

「最近どうだ?真紘が居てうるさくなったか。」

疾風は許可もなしに星那の部屋に入るとそう聞いた。

「…余計なお世話だよ。でも見れば分かるでしょう、嫌でもうるさくなるのが。」

その言葉を聞いて疾風が歯を見せて笑う。星那はあまり笑わない、それは昔から変わらなかった。

「馬鹿だからな、あいつは。家の或斗もうるさいぞ。…でもそれでお前が笑えるんだったらいいじゃん。」

 星那は思う、確かに真紘と過ごすようになってからは前よりよく笑うなあ、と。声を出して笑うほど楽しかったり嬉しかったりすることはないけど。

「…ふん。君ってホント過保護だから困るよ。」

星那が迷惑がるように、突き放すようにそう言う、が。

「ホントは嬉しいって、そんな顔してるぞ、お前。」

観察の能力を持つ彼がすぐにそう言ってくる。前からそうだったのだ。

星那がつまらないと感じても、疲れたと感じても、死んでしまいたいと感じても、彼はすぐに『そんな顔してる』と言ってきて、それが外れたことがなくて。

 「…なんでも顔で判断しないでよ。気持ち悪い。」

確かに今は、あんまり嫌なことはないから最近言われてなかったけど…疾風にはなんでもお見通しなんだ。怖いくらいに。

「気持ち悪くて悪かったな、嫌でも見えるんだよ。他人が考えてることなんて。」

 いつでもなに考えてるか分からない顔をしてるのは、他人のことが見えてしまうからなんだろう。自然に自分は隠そうとするんだろう。

「…見えるんだったら、今はボクより或斗のほうが無理してるんじゃないの。」

 疾風は驚く顔も見せずに、よく分かってんじゃん、とそう笑う。

「あいつは今に始まったことじゃない、これ以上無理するようだったら俺にだって考えはあるけどな。」

親指を立てて、大丈夫だの合図。確かに星那が首を突っ込むことではない。

人の心配をするのは苦手だからよかったが。

 「じゃあ或斗のことは任せたよ。」

元々、このメンバーのお世話係はなんだかんだいって疾風だけどね。

 

「ああ!星那様~そろそろ行かないと遅刻ですー!!」

真紘の騒がしい声と共に、今から学校に行く。

 

目標はこの町の防衛、だが。

反対クリミナル 3

深夜は特に事件もなかったようだ。深夜に襲撃があるのは結構珍しい。時々あると深夜の当番はセナとマヒロだから大事だと叩き起こされて大変なことになる。

でもインターネットにも大したことは載ってないし大丈夫そうだ。

「…んんー…、起きて疾風ー…。」

今日の朝ごはん当番は疾風だ。目覚まし時計が煩くなり続けている。なのに起きたのは或斗だけだ。

「ねえ朝ごはん作ってってば疾風!遅刻しちゃう!!」

試しに枕を投げてみれば顔に当たって短く彼が声を上げる。

「いってー…あと寒いから嫌だ。」

寝返りを打って背中を向けてもう一度眠りだす。それに或斗はあからさまに嫌そうな顔をして文句を言う。

「昨日は僕が作ったんだもん、今日は疾風だよ。ちょっと出て食パン焼くだけじゃない!早く、この神速ーー!!」

結局或斗が先に起き上がって暖房をつける。

「もう7時じゃない、どうせ僕が起きるの待ってたんでしょう!疾風!!」

それでも寝ようとする疾風に或斗が馬乗りになって枕で叩く。

「おい!枕でも痛いもんは痛いんだぞ…どけよ、お前太っただろー!朝飯の一つや二つで食い意地張るからだぞ。」

 その言葉に或斗が益々怒る。が、流石にあほらしくなってきたのか或斗ももうやめて立ち上がった。

「ほら、そんなこと言ってないでもう暖かいでしょ。朝ごはん、ヨロシクね。」

そう言うと或斗はテレビのある方向へ歩いていった。

疾風が一つ欠伸をして起き上がる。

 

俺達《ハンタイ世界》の住民にはステータスがある。

この世界で言うゲームの中のようにポイントを10段階にそれぞれ振る。

攻撃力、防御力、命中力…俺達は生まれたときからそれを自分で決める。俺、疾風なんかは正直人間世界に来る気がさらさらなくて、人間として必要なステータスにはあんまりポイントを入れていない。だから人間として生きていくのは少しだけ息苦しかった。

或斗なんかは結構人間的なことができるくらいにはポイントが振ってあった。だからこっちの世界の方が運動神経は良いくらいだし頭も良い。俺はその逆、運動神経もそれなりに悪いし頭も良くない。戦闘的なことしか考えられない脳みそというわけだ。

だから、守るって言う任務があったってなんだって人間世界は苦手なのだ。

何故?そう聞かれれば或斗が居るからだ。或斗と決めたことだから。あいつは基本的に優しい奴だけど過去に一度だけ本気で怒って泣いたことがある。

それが《ハンタイ世界》へ、だった。

『僕を幽閉したこの世界だけは許せない、身分だけで、能力だけで差別したこの世界を許さない。だから人間世界を守ってやりたい。』

 或斗を連れ出したのは俺だから、一緒にやろうって言った。それからずっと一緒に居るけど…

幽閉されてた時間がある分、あいつは本心を見せることが苦手だ。

或斗は未来予知を持つが、俺の能力は観察。だからその類のことはお見通しだった。

まあ自分を隠すことは悪いことじゃないし、戦う分には良いことだらけだけど、いつか無理しておかしくなるんじゃないかとヒヤヒヤはしてる。

 「ちょっと!早く朝ごはんー!!」

着替え終わったらしい或斗はすぐに騒ぎ立てる。現在7:10。作るのはたいへん面倒なのだ。だけど金がないので作るしか…。

「あ!良いこと思いついたぞ或斗。」

そういうと布団の中でもぞもぞと着替える疾風を見に来る。

「なに?コンビニで買うとか言い出さないだろうね?」

制服に身を包んだ或斗が疑う目で疾風を見るが彼は違う違うと首を振った。

「星那-セナ-にご馳走になろうぜ。あいつ金持ちじゃん。」

そう、『紅星那-クレナイセナ-』は《ハンタイ世界》の金をこちらの世界の本物の金に変換することができるのだ。或斗と疾風は何度も失敗した魔法であり実行するのはやめたが…。ちなみに『藤原真紘-フジワラマヒロ-』もできないらしい。あいつはあらゆる面でドジだから仕方ないが。

或斗は少し悩んだが、それもそうか、と納得し、

「よし、いこっか!」

と笑顔を見せた。相当腹が減っているのだろう。

二人は鞄を持って玄関を通った。

反対クリミナル 2

「セナ様、こんな時間まで寝ておられるのですか?もうそろそろ2時ですよ…。」

扉越しにセナと呼ばれた少年が少しだけ怒りを含んだ声で言い返す。

「ちょっとマヒロ、寝坊したのは君でしょ。ボクは12時には起きてたさ。」

 部屋の中で眠ってもいないセナは紅茶を啜って動く気配もない。マヒロは扉を開けて声を荒げた。

「ええー!待ってくださいよ!いつも起きるのは1時じゃないですかー!だから出てくるのを待ってたのに…」

寒くて凍えそうでした、とかなんとかぶつぶつ文句を言いながら部屋に入ってくるマヒロにセナは同情することもなければ見ることもなく、

「どうせ人の部屋に無断で入ってくるんだったら一時間前に入ってきても同じだったじゃないか。」

 と、嫌味のように少しだけ大きな声で言うとマヒロはハッとしたような顔をする。

「ああ!申し訳ありません!どうかお許しを!!」

すごい勢いで後ずさって土下座を決める。

セナがそれを見て大きく溜息をつき、やっとマヒロに視線を送った。

「別にそんなに怒ってないからやめて。いちいち大袈裟。」

その言葉を聞くとマヒロは顔を上げてすぐに立ち上がる。

真剣な表情に一転、マヒロは用件を話す。

「アルト様とハヤテ様は先程、外敵の襲撃から人間を守ることに成功したようです。ただトラックを一台真っ二つにしたようですが…。」

少しだけ顔を引きつらせながらマヒロが言うのをセナは驚くこともないまま聞く。

「…いかがしましょう、セナ様。あんなに派手にやられてしまっては証拠隠滅もできません。原因を探られでもしたら正体がバレても無理はありませんよ。」

心配で体をそわそわと動かすマヒロにセナが、落ち着きなよ、と一言かければすぐに返事をして収まった。

「君ホントに馬鹿だよね、アルトとハヤテがそんなに無計画なはずないじゃないか。二人は君の数百倍頭がいい。」

(…まあ多分なにも考えてないだろうけど。)

なんて考えながら。マヒロは酷いだとかまた何か言っているようだがセナは無視で。

アルトとハヤテ。幼馴染で誰よりも心を通わし合い、ありえないほどに息が合う。セナが二人と関わったのはほんの数年前。アルトやハヤテは同い年で14歳。セナは10歳、マヒロは16歳。《ハンタイ世界》の中で言えばまだまだ全員若すぎる年だ。だからこそ丁度よくなめられるので相手を潰すには最適な年なのだ、実力さえあれば。

セナは吸血鬼族だ、まだまだ幼子の。かの有名なドラキュラの息子でSランク。力だってそれなりにつけてきたつもりだ。

マヒロは暗殺者-アサシン-族の下っ端。誰かの息子とかじゃなく平民で。セナの暗殺に失敗したところをひっ捕らえられて、しかもその時マヒロは「暗殺は嫌いなんだ」なんてぬかした。

(アサシンのクセに馬鹿だし作戦とか考えさせてみても単純すぎて馬鹿としか言いようがない…。マヒロはどうやって強くすべきなのか…。)

当時はCランクだった彼がボクと組んで有名になりAランクまで上がったのは事実だ。けど…。

「ランクの割に弱いんだよねキミ。」

いきなりの主からの言葉にマヒロが相当ショックを受けたようだった。

「ええー!なんか考え込んでらっしゃるなあと思ったら俺が弱いってこと考えてたんですかあ!?」

扉のギリギリでずっとうるさくするマヒロ。叫び散らすなら入ってこなくても入ってきているようなものだ。

「…君の主である僕がピンチになったら守りきれる自信ある?」

その問い掛けをするとマヒロは突然静かになった。流石に凹んだだろうか。

(まあ単純だしすぐ元気に…)

「セナ様!!」

大きい声に少しイラつきながらセナが振り返ると、マヒロは部屋に入ってきてセナの隣にその高い身長で佇んでいた。

「…俺、確かに弱いです…。けど、ですけど、この命に代えてもセナ様をお守りする覚悟はありますゆえ、この《命射のマヒロ》、まだカッコいい二つ名はございませんが…必ずあなた様を死なせることはしません!!」

心臓に手を当てて、言いたいことは言い切ったようだ。

セナは笑う、マヒロを試すように。

「ふーん、覚悟だけは上等だね。この【一閃を生きる鬼】である《黒翼のセナ》がピンチになるような状況でキミは命に代えてもボクを守るんだね?」

そう、セナでも打開できないような状況を、マヒロは打開するといったのだ。

だか彼は、

「勿論です。」

そうハッキリと言った。セナは笑うと、

「やっぱり面白さだけは人一倍だね、この馬鹿。」

やっぱりマヒロを嘲笑った。

反対クリミナル 1

「ハヤテ?今暇でしょう。」

今日は月夜、満月、冬の夜。

明るく発光するような黄緑色、長く伸びていて一つに纏められている。

真っ赤な目に、映るハンタイ世界。

「ああ、超暇。なんか見えたか、アルト。」

月光の下、屋根の上、黒猫と共に。

茶色の髪が角が生えたかのように上に伸びる、常識外れな存在。

怪しき紫の、目。

「うん、多分ハヤテが居る場所の数メートル先、事故だね。」

公園の時計が進む。

「あと数秒、トラック横転、歩行者下敷きかな。」

未来を見据える、それがアルトの力。

「ほう、大事故だな。俺の隣に黒猫が居るから不幸な目に遭ったか。」

しかしアルトはやれやれと。

「黒猫は横切ったら不幸なんでしょう?大体、ハヤテが事故に遭うわけじゃないよね。」

その言葉を聞いて「神速」の名を持つハヤテが笑う。

「遭わないよ、だって俺は《神速のハヤテ》だ。俺の速さにかかれば、事故らせる方のが難しいに決まってる。それはお前だってよく知ってるだろ、アルト。」

神速は、ニヤリ。笑顔はいつもそういう顔だったよね。

「勿論。この《魔眼のアルト》、誰よりだってよく知ってる。いつだって一緒に居たもんね。」

魔眼は、クスリ。笑顔はいつもそういう顔だったよな。

 

さあ、大きな音がした。分かっていた未来。

だけどハヤテは?もう居ない。すぐに突っ込む、だって彼は神速だから。

「流石、速いね。もうそっち居る?」

人の叫び声やらなんやらで騒がしくなっている方向をアルトが眺めれば…

「えー…トラック真っ二つじゃない。加減をしなよハヤテ。」

 綺麗に、車体が裂けた。久々に思いっきりやったみたいだ、ハヤテったら。

 「やりすぎたな。まあ人は死んでないからいいじゃん。」

人間の声が聞こえなくなった。

一瞬の間に物凄いことがいくつも起きたから人間達は声が出なくなった。

「運転手は?」

トラック真っ二つにされて無事だとは思えなくて。

「外に投げた。飲酒運転とかじゃなさそうだな、まあただの事故か。」

心底詰まらなさそうに、ハヤテは言う。どうやらもう現場からは離れたようで、事故現場に居たのはほんの数秒の間。

「ああそう、目立っちゃったね。」

 真っ二つにしたせいで、人間は更に大事にしようとした。ハヤテはもう少し後のことを考えたほうがいい。誰かがハヤテのことを見ていたなら後々噂が大きくなってもおかしくない。

「まあいいだろ。普段の俺たちは学生なんだし気付かれたってどうとでも誤魔化せるじゃん。」

ちょっとぼーっとしてた隙に、ハヤテはもうアルトの背後に立っていた。

アルトは振り向きもせずに、そうだね、と適当に返す。

「今日は満月だったか。気分がいいな。」

 

ハヤテがアルトの隣へ歩いていけば、

「今日もキッチリ任務完了だな。」

顔を見合わせて笑いあう。

数分の間の任務完了も、自分達にとっては大きな一歩。

「派手にやったのはちょっと失敗な気もするけどね。【電光石火の風魔神】とかなんとか呼ばれる割にはどんくさいじゃない。」

アルトが少しだけ馬鹿にするようにハヤテに笑う。

それでもハヤテは笑い返す。

「おいおい、それを言うんだったらお前だって【美しく非道な魔女】とか呼ばれちゃう割には男だろ?魔!女!のクセにな。」

満足とでもいうかのように月を見上げて笑うハヤテに、アルトは少し機嫌を悪くして踵を返した。

「それはお母様の影響だから仕方ないって知ってるクセに。だって魔女から男が生まれる確立は低いし、それが常識として浸透してるから僕が女だって有名になっちゃうの!それだけでしょ。」

民家の屋根の上から躊躇なく飛び降りたアルトは人間としての姿に変わる。

色は変わらずとも髪は短く、月に星の飾りが煌めく美少年、『詩音或斗-シオンアルト-』の姿へと。

「知ってる知ってる、ただお前が面白いから言ってみただけに決まってんじゃん。」

同じようにハヤテが降りてくれば人間としての姿『山神疾風-ヤマガミハヤテ-』へと変わる。

普通の中学生。子供でもなければ大人でもない。その前に人間でもない。

 

 二人が生まれ落ちた世界《ハンタイ世界》は人間世界の反対に位置する。

反対とはどこか。それは未知であり知る者が存在しない。

今足をつけている世界の反対側、地球の内側?さあ、もっと遠くか。別の次元か。

《ハンタイ世界》で最も重罪なこと。それは「人間世界の防衛」

《ハンタイ世界》はいつか人間世界を乗っ取る、とそう言った。

それを許せなかった二人の少年が、その罪を背負った。

 

【電光石火の風魔神】《神速のハヤテ》Sランクの魔族 魔人系

【美しく非道な魔女】《魔眼のアルト》Sランクの魔族 魔法使い系

 

前代未聞の全世界指名手配。

それでも生きて、人間世界を守り続けるとそう誓った少年達。

《ハンタイ世界》の人々は絶望した。何故なら、彼等が強すぎたから。

《ハンタイ世界》はランクで格付けがされる。上からSSS、SS、S、A、B、C、D、E。

大抵は生まれながらの素質で生まれつき付けられるもの。極稀に実力で上がりも下がりもする。

SSSは神が持つランク。全てを創造したとされる神に付けられる。

SSは《ハンタイ世界》は勿論、人間世界にも名前が轟く伝説とされる者たちのランク。

SはSSの子供、もしくは《ハンタイ世界》に名前を轟かせた者のランク。

AはSの子供、もしくは有名ではなくとも確かな実力のある者のランク。

BはAの子供、もしくはある程度の実力と技術があるかで決められるランク。

CからEは一つ上のランクの子供であることと実力から決められる。

 

人々は恐れた、上から3番目の実力に。

その上、ハヤテは全ての悪を統治する魔神の息子であると知られ地獄から這い上がった実力があるとも言われた。

アルトはどの世界でも怪物と恐れられるメドゥーサの子供であると知られ人を惑わす魅力を受け継いだ魔女であると言われた。

 

捕らえられない、処すこともできない。だが《ハンタイ世界》はそれでも乗っ取りをやめない。

だが彼らは代わりに直接的な支配を諦めた。

《ハンタイ世界》の者達は人間を遠距離で操り、人間を抹消する手段を自然な形で行おうとした。

人を操り事故を起こし、そこで人が死に絶え、人が人を減らしていくように。

少しずつ、《ハンタイ世界》の住民の大人数で様々なところから人を消すように。

 

だが幸いまだこの町にしか手が出せないようだった。

この町の反対側にしか奴らの拠点はなく、そこからしか人間世界に入れない。

他の開発途中の拠点は《ハンタイ世界》に居る数少ないレジスタンスが襲撃し、開発を食い止めているらしい。

だから二人は田舎でも都会でもない平凡な『双葉市』なんて特別でもなさそうな場所を守り続ける。

 

「やっぱりこの辺は襲撃が過激だな。疲れる。」

溜息混じりに疾風がそう吐き出した。

「そうだね、まあ仕方ないよ。今日の深夜に何もないことを祈ってもう帰って寝よう。」

バイトとか言うものもできないため時々公で人助けをして金を貰うギリギリの生活をしているから仕方もなく。

二人は今日も反対側で笑った。