反対クリミナル

ゆっくり小説書いていきたいなと思います~

反対クリミナル 11

「ふーん…よかったじゃん、セナのやつ。」

ハヤテはマンションの屋上から様子を見ていた。

彼を止める罠は勿論あったが誰かが待ち伏せという訳ではなく、ただの落とし穴だったのだ。他者を始末することに関しては一流のハヤテを止める手段にそんなくだらないものを選んだ理由はなんとなく理解できていた。始末されると分かっている者が向かってくるはずがない。だから生物を此方に寄越さなかったというわけだ。

「全く…とんだ根性なしどもだな。負けること分かってるようなもんじゃん、面倒だし正面から来いよな。」

大の字に寝転べば、空は紫に染まり始めていた。自分の故郷の空の色によく似ている。

思えば生まれた場所だというのにあまり長く居なかった気がする。アルトに出会ってからは色んな景色を見て周っていたし、その後は世界の境界線さえ越えてしまった。

自分はあまり普通の人生を送っていない。生まれたときは地獄に居たし、やっと這い出たと思ったら自分の目に映ったのは他人の本性ばかり。悪を統べる父親と共に城に居るのも飽きてしまって、出て行けばやたらSランクの友達ばっかり出来て、アンドロイド工場で迷子になって豪い目にあって、色んな人に別れを告げて…世界を出てきた。

それを幸せだというのか散々だというのか…、それでこれからのことは大分変わってくるんだろう。

アルトやセナ、マヒロに出会って楽しいしよかったと思う。ただ全員で犯罪者やってるっていうのは少しだけいけないのかなあなんて。

当然犯罪はいけないことだ。でもその罪は世界防衛。いけないことだといわれると少し違う気はしていた。

「まああいつ等も良いって言うし…気に病む必要はないのか?うーん分からん。」

寝転ぶのを止めて胡坐を掻いて腕を組む。

あれこれ考えてキリがつかなくなったとき、携帯の着信音が鳴った。

ハッとして応答して耳に当てると鼓膜が破れんばかりの声でアルトが叫びを上げる。

「ちょっと!!どこでなにしてるの!僕たち五人全員助かって終わりじゃない!」

走りながら息を切らしてるようだった。ユナカが走り去った方向とは別方向なことが伺える。

「何が見えたんだ?焦って珍しいじゃん。」

ハヤテは人に流されない性格を貫いて、アルトの焦りにも全く釣られなかった。

「ハヤテが焦らなさすぎなの!いい?最後の目的はハヤテを殺すことみたい。さっきの落とし穴で終わったと思わせる作戦だったんだよ!」

なるほど、ハヤテは思った。

落とし穴で気を引いたのはまだこれから作戦があることを観察の能力でばれないようにする為だったのだろう。

「へえ、ただの馬鹿じゃなかったな。」

ちょっとは脳があるじゃんか。ハヤテは面白そうに笑った。その反応にアルトはまた声を荒げる。今度は泣きそうな声で。

「暢気なこと言ってないでよ!こっちはハヤテが死ぬところばっかり見せられて大変なんだからあ!!」

少しだけ携帯から顔を離しながら聞いていた。今の時間がアルトにとって苦痛でしかないのだな、と思いながら。

「はいはい、すぐその未来変えてやるから泣くなよー。とりあえずセナ達に会うとかなんとかしろ。お前はお前の身を守れ、いいな?」

そうやっていつも通り軽く言うと、電話越しにアルトの喉が音を鳴らした。

その後の言葉は聞きたくなかったから、電話は切った。泣いたな、と思いながら。

「へへっ、馬鹿かあいつは。タダじゃやられないぞ。…俺はまだアルトと生きるんだからな。」

そう言ってから、発光色のソードを慣れた様子で振るった。

だが、敵が来る気配がしなかった。いつもなら反対側にでも近づけば感じた気配がしない。

「なんだ?怖気づいたのか?それかアルトの見た未来も偽造だったのか?うん…」

顎に手を当てて、うーんと唸る。分からない。今は一人。ハヤテが負ける未来など…。

「やーめた、分からんことは考えても無駄だ。」

ソードを構えるのを止めて、ハヤテがマンションから飛び降りようとした。

ほんの、一秒。

アルトが息を切らした。

ほんの、一秒。

 

君が笑う一秒で。

 

ハヤテの背後に反対から敵が現れる。その敵の嘲笑など…。

「「なめてるのか、お前。」」

振り返る紫の瞳が笑う、嗤う。怖気づくそいつが、まだ意味を理解しない。

その声が二重だったことにさえ。

ロッドから放たれる閃光に、そいつが反応することは無かった。魔女が嗤うことには気付かない。

閃光を受けた反対側の兵士は粒子となって消えた。

が、走った勢いで突っ込んだアルトは勢いを収めることも無いままハヤテにロッドで殴りかかった。

「この馬鹿!!一人でできるとか相手をなめすぎ!」

特に避けることも無いままにロッドの痛みを受け、ハヤテは少しだけ不機嫌な顔でその言葉に応えた。

「おいおい、背を向けたのはお前が来るって分かったからだぞ?いい判断だったじゃん。」

殴られた箇所を手で摩りながらやっと足を地面につけた。だがアルトはまだまだご立腹。

「よくない!間に合ったけどすっごくギリギリだったんだからね?ハヤテみたいに速くないんだから!」

腕を組んで怒りを示す姿勢。アルトの昔からの感情表現の一つ。

「はいはい、悪かった。次からは馬鹿なことしませんー。」

軽く手を振ってあしらうハヤテ。アルトは諦めてもう何も言わなかった。

そのまま歩いてセナ、マヒロの二人と合流した。二人とも機嫌がよさそうだ。

全員が揃うと人間の姿へと戻り大勢の人が居る場から離れようと歩き出したが、後ろから走ってくる音が聞こえた。

「待って!」

その少女が持つ緑の瞳は覚悟を決めていた。