反対クリミナル 12
夜の空気は冷たく変わる。弱い風に彼女の桃色の髪と、スカートがひらひら揺れていた。
「さっきは、あんなこと言ってごめんなさい…。」
照れるように、小さくそう言った。或斗はその言葉を笑って聞く。疾風は相変わらず表情一つ変えずに居たが。
「あの、仲間と群がったりするのって…したことないの。…友達とか、そういうのって、苦手だから…。」
スカートの裾を握り締めながら視線を斜め下に向けている結奈華。その言葉は間違いないようで、話すのも苦手なようだった。
「でも、仲間になりたい!《加護持ち》で差別されるのはもう嫌!」
やっと前を向いて、ハッキリと言葉を放った。
それを見て四人は次第に笑顔を浮かべる。結局自分達と同じだと。何一つ変わらないんだと。
疾風は言葉を最後まで聞いてやっと笑う。
「俺らそんなの日常茶飯事だったし、さっさと言えば仲間に入れてやったのに。」
そんなお気楽な言葉に四人は顔を合わせて笑っていた。結奈華はそれを、次第に羨ましく感じ始めていた。でもこれからはこの中に入れるのだと思うと自然に胸が躍る。
そんな彼女を見て真紘はさっそく彼女に手を伸ばして笑った。
「さあ、もう仲間なんですから!あんまり固くならないでくださいよ、結奈華さん。」
相変わらずフレンドリーな彼を見て星那も薄く笑う。召喚獣は結奈華の背を押すと同時に人間の姿へと変わった。
或斗はそれを見て目を見開く。
「ええ!人間になれるんだねー!」
未来予知ではなく、驚く意味で。疾風はそれを見て呆れるように言う。
「おいおい、俺達だってあんまり変わんないけど人間の姿があるんだぞ。召喚獣にあったって可笑しくないだろ。」
それを聞いて納得したようだがこれには結奈華も星那も少し驚いていたようだ。
こちらの話が収まった頃に召喚獣であるヤマトが口を開いた。
「はじめまして、私は《妖狐のヤマト》です。マヒロがお世話になっています。」
どちらが召喚されているのか分からないような口振りでヤマトが言うので真紘が少しだけ不機嫌そうにする。
「ヤマト!…もう…。で、でもヤマトを入れても女の子は結奈華さんだけですね、六人中一人ですけど…、結奈華さん大丈夫ですか?」
心配するように、彼女に向き直って問う。
「…私は大丈夫。男とか女とかってあんまり関係ないと思うし。」
結奈華が気にする様子も無くそういうので真紘は納得して、そうですか、と短く返す。星那はそれを見て小さく言う。
「…真紘ってさ、性別的なこと気にするけど何で?」
主の質問となると跳ね除けることもできないため、真紘は応える。五人はさりげなく興味を示す。
「妹がそういうことはすごく気にしてたので…、女の子はみんなそういうものなのかなあって…思ってるだけですよ。」
へえ、と数人から声が上がる。この中の多くの者に兄弟がいないため、少しだけ理解に苦しむのかもしれない。だが星那が驚いたのはそこではないようだった。
「真紘って妹居たんだね、苦労させてるんでしょう。」
また馬鹿にするように言った。真紘は少し困ったような顔をした後笑った。
「へへ、そうですね。苦労、掛けてましたね。俺ってダメダメだから。」
疾風は真紘のその顔を見て、なにかを察したようだった。彼意外は何も感じることは無かったようだが。
「まあ、もう暗いし帰ろうぜ。夜遊びだーって先生に捕まるぞー。」
疾風が適当に促すと口々に「お腹すいた」だとか「宿題やってない」だとか、普通の人間のようにそれぞれの道へ帰っていく。
結奈華は気付けば、その夜の街に残されていた。
ようやく友達と別れるときが寂しいというクラスメイトの気持ちが分かった。
疾風はちょっと怖い気がするけど実は過保護で優しくて
或斗は完璧に生きてるようで抜けてて心配性で
星那は大人なようでちゃんと子供らしい所があって
真紘は馬鹿で何も出来ないようだけど人の為に尽くそうとしていて
全員に良い所も悪い所もある。
自分は今まで人の悪い所しか見ようとしなかった。自分を否定するのなら自分も相手を否定しようと、良い所なんて気付こうともしなかった。
私は少しでも他人と違うなら差別されてしまうような、残酷な世界に生きている。
別の世界を支配しようとする愚かな世界に生まれ、それなりの不幸を味わって。
「…ありがとう或斗。貴方の言葉だけで、世界が違って見える。」
自分は世界の脇役なんかじゃない。主役なんだ。私はこの世界の主役になるの。
「もちろん、貴方達と一緒に。」
月に背を向けて、彼女は罪を受け入れた。