反対クリミナル

ゆっくり小説書いていきたいなと思います~

反対クリミナル 8

「反対!」

或斗がその言葉を叫ぶとその姿は髪の長い、《魔眼のアルト》へと変わる。その右手には彼の武器であるロッドが握られている。

「あと2分…、敵はどこ?」

真っ赤な瞳で、周りを見渡す。

見えたのは誰かが結奈華を刺す未来。きっとこの辺りの誰かが操られる。反対側の敵に。

 結奈華の姿は見えている、少し先に。誰かに襲われてもすぐに助けられる。彼女が狙われてることに気付いているかどうかは知らないが。

「あ…。」

見える、見える。刺される未来。ナイフが突き刺さって彼女は血を流すだろう。

「そこにいるんだね、敵が。」

大きく見開いた赤い目に映る、少し先の未来と共に、後に現れる《ハンタイ世界》の住民の姿も見える。

「お前か!」

指差した先に居る存在、操られる人間。

普通の黒のジャケット、茶色の帽子。今から犯罪する予定なんて微塵も無かったそいつが、指をさされたことに焦り、予定より約30秒早く、結奈華の背中を狙う。

「結奈華!!」

彼女が驚いて振り返る。ああ、彼女は知らない。敵に気付けるような能力は無いようだ。

「敵…!」

身を守るより先に、彼女は咄嗟に後ろに下がる。焦りのあまり、尻餅をつく。

「遅い!」

目を見開いたままの或斗が、踏み込んだ足でナイフを持つ人物を結奈華とは別方向に押し倒す。

 

その後、間も無く訪れる静寂。或斗はその目を閉じて一息ついてもう一度開いた。

結奈華は普通の人間の少女と同じように動けないで居た。

「…大丈夫?君、そんなに有能じゃないんだね。」

疾風が言うほど戦力になりそうに無いと、或斗は思った。この少女が仲間になって、どうこうなるというわけではないだろうと。

「…ごめんなさい。」

目の前で邪気が抜けた男が走り去っていく中で、彼女は小さくその声を絞り出した。

「何に対して謝ってる?」

見下ろす形になってしまうのが申し訳なかった。が、道にしゃがみ込むのもなんだか嫌で結局立ったまま彼女の言葉を待った。

「私別に、疾風を突き放したいわけじゃなかった。でもいつも言えないの。仲間に入れて、なんて。でもあなたに守ってもらって、また言いに行きたくなった。でもそんなこと言えない。でも一人で戦う力も、私は持ってない。」

桃色の髪を横に振りながら、立ち上がる。その足は弱弱しいながらも肩幅に開いて立っていた。

「でも私は戦いたい!私を差別した《ハンタイ世界》の全てが許せないの!!」

緑の瞳は怒りと悲しみに染まって、震える声で或斗にそう訴えた。或斗には差別される辛さがわかる。閉ざされた時間の苦痛は全て、身に染みて残っている。

だから、結奈華の持つ感情がどういうものか手に取るように分かった。

「…差別って、どんな?」

きっと、彼女のこの感情が疾風には見えていたんだろう。今、少しだけ疾風が感じる相手の心というものが或斗には分かった気がした。

「…私は《加護持ち》、【巨人の魂】を持ってる。妖精のクセに怪力で斧を振り回してずっとずっと差別されてきた。それを止めることは許されなかったの。妖精の国は王子様とお姫様がいつだって主役。それを引き立てるために汚れなきゃいけない!」

 《加護持ち》とは、何か偉大な者に認められ、加護を得た者のこと。大抵はSSランク以上の存在が与えられることのできるものだ。或斗も【メドゥーサの祈り】を持つし、疾風は【魔神の紋章】、星那は【ドラキュラの翼】を持つ。真紘はSSランク以上の親を持っていないために加護を受けることは難しい。それを結奈華が持っている…彼女はSSランクに認められるほどの実力があると言うことなのに。それを差別する輩など所詮は身の程知らずということだ。

「君ってなにランク?」

Sランクならば加護を持っていてもおかしくない。親から受ける者はたいへん多い。

「Aよ。加護は身内に受けたわけじゃない。妖精の森の奥に住む巨人、陰ながら守護神とも言われてるようなね。…私を認めてくれたのに、周りの人はそれを差別した。」

ああ、そういうことか。或斗は理解する。

彼女は自分よりも巨人が貶されるのが許されないんじゃないか。メドゥーサであってもどの世界でも敵扱いでそれが辛くなった頃もあった。勿論自分が差別されるのだって悲しく怒りが湧くものだが。それと同じか。

「ふーん…、僕も差別されたよ。魔女の息子なだけで暗闇の中に独りぼっち。誰とも目を合わせちゃいけない。それがお母様との約束だったし、仕方なく。」

「でもね、疾風は僕と目を合わせても平気でいた。太陽の下に僕を連れ出して、『俺と一緒に世界を見に行こう』って、僕に笑った。」

いつも俯いて道を歩いて、人気の無いところでやっとまっすぐ前を向いて見る景色が大好きで。その時、疾風とずっと一緒に旅をしたいと思えた。

だから、そんな『差別される』なんて常識変えてしまえばいいだけ。

「差別なんて、その王子様とかお姫様とか、偉そうにしてる奴の上に立てば終わりだよ。」

そう、すぐに終わる。全世界指名手配犯になってしまえば、恐れと憎しみの対象になると共に、人間の救世主になれる。結奈華は遮るように言葉を発する。

「そんな簡単に…!」

そう、難しいこと。そんなに簡単にヒトの常識は変えられない。だけど疾風と共になら出来たことだ。

 「いいや、本当に嫌なら難しいことだってやり遂げなかったら死んでも死にきれなくなるはずだよ。」

今は魔眼なんてモノ使わなくても、彼女の心を動かせる気がする。

 

「僕たちと世界の主役になろうよ。そうすれば誰にも馬鹿にされないよ。」

 

僕がそう確信できたこと。4人一緒だったらできないことなんて無いと思えた。それと同じように。

驚くその彼女の顔が少しだけ、希望を見出している気がした。